山田プロフィール


全国屈指の人口増加率を誇る千葉県流山市にて衣裳着雛人形の制作を手がける山田人形工房。現在代表を務めているのは"二代目山田華悦"を襲名する山田吉徳さん。千葉県指定伝統工芸士であり、"華悦""尚好"名義の自社製品を手がけるほか、次世代へと節句文化をつなげるプロジェクト"縫nui"のメンバーとしてもご活躍されている山田さんにお話をうかがいました。


■この仕事を始められたきっかけを教えてください。


実家が尾山人形制作に携わっていたこともあり、私にとって人形は身近な存在でした。物心つくころには家業を継ぐ決意はしていましたね。商品を仕入れて販売する小売業務も行っていましたので、実家に入る前に人形販売に関するノウハウを吸収することを目的として、大学卒業後に大手人形問屋へ就職しました。

数年間の営業職を経て、デパートでの販売業務を担当したのですがここで転機が訪れたんです。初めて目の当たりにする一流作家さんたちの雛人形の数々が本当に綺麗でね、これには衝撃を受けましたよ。これまで思い描いていた人形のイメージが大きく覆されたと同時に、どうしたらあんな人形が作れるんだろうと、そこで一気に人形への関心が販売から制作へと傾いていきました。

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▲ おもに贈答用として作られる日本人形のひとつ尾山人形。歌舞伎や浮世絵に登場する人物をモデルとした華やかな形姿が多い。


■はじめから作り手を志していたわけではなかったのですね。では、いつごろから制作を本格的にはじめたのでしょう?


家業を継いでからですので30歳頃からでしょうか。前の職場にいたときから「作り手になりたい」という想いが芽生えてはいたのですが、組織の中にいるひとりが急に「ものづくりを始めたい」といって認められるほど社会は甘くないですからね。雛人形製造部門がありましたが、そこで実際に作って学ぶという経験は残念ながらできませんでした。

日々の業務に携わる中、これから先の将来、これまで通りの営業形態では先細りは否めないと感じ始め、やはり今後は小売と尾山製造業務だけでなく雛人形の製造もしていこうと決意したあの瞬間が作り手としての第一歩だったんじゃないかと思います。


■実際に雛人形の制作をはじめてみてどうでした?


スタートから簡単にはいきませんでしたね。自社でものづくりをしている地盤はあったので、その工程を応用すればどうにかなるかなと思っていたのですが尾山と雛とでは全くの別物でした。また基本となるお手本もないので"かたちづくり"にも戸惑いました。

ただ「何も始めずして諦めることはないな」と、まずはお手本として有名作家さんたちの雛人形を数点仕入れ、衣装の色柄の組み合わせ方はもちろん殿や姫の胴の長さや腕の長さなど表面的にわかる部分のデータ収集を始めました。見るべき点では尾山と通じる部分もあったので、大事なポイントは抑えられていたとは思います。

その後、集めたデータを踏まえた上で制作に取りかかるのですが、それでも思うようにはいかないんですよ。だから思い切って一体ずつ分解していきました、高額商品でも「これは授業料なんだ」と割り切って。

数々の雛人形を分解し比較することで、表面からは見えない製作技法を知るだけでなく各工房の工夫している個所を発見することもできました。それらの良い部分を抽出し取り入れていくことで理想の造形美に近づけながら作業効率までアップさせることができたのは大きな収穫でしたね。今でもこの経験が役に立っていると思います。

山田華悦プロフィール

▲ 出荷前の雛人形(流山工房にて)

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▲ 工房に飾られた認定書や賞状の数々


■分解とはすごい探究心ですね。それよりも山田さん、制作に関しては"独学"なんですか?


そうなんです、完全に独学です。分解してきた人形の数はどの人形師さんにも負けないと思いますよ(笑)


■それでは独学から生まれた山田さんの雛人形の魅力や特徴を教えてください。


工房の代名詞とも言える"豆雛"はうちの自信作です。今日のような理想に近いスタイルへと辿り着くまでに、何度も衣装の採寸を変えてみては人形制作を繰り返してきました。極限まで小さくした手のひらサイズにして十二単の華やかさまでが堪能できる衣裳着人形ですので、都市部にお住まいのご家族の皆さまにはきっと喜んでいただけると思います。

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▲ 試行錯誤の上作り上げた記念すべき第一作目の豆雛。

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▲ 現在の形。袖部が広がり安定感が増しているのがわかる。


そしてこの豆雛ですが現在もなお進化させ続けていまして、平成30年度からは新しい十二単のスタイルにも挑戦してみました。これまでよりもさらに手間をかけた分、仕上がりの美しさにも自信がありますのでより多くの皆さま方に見ていただけると嬉しいですね。

山田華悦イメージ

▲ 女性の手のひらに収まる極小サイズ。

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▲ 2018年より女雛の配色をより際立たせる着付けに挑戦。


■では最後に、今後の展望や目標を教えてください。


これまで同様「人とのご縁」は大事にしていきたいです。人形作りは分業制ですので、私の行う着付け作業だけでなく、その雰囲気に適した頭や小道具を作ってくれる職人さんがいないと成り立ちません。こちらの想いを汲み取りかたちにしてくれる職人さんたちとの関係をより強固なものとしていきたいですね。

また近年、雛人形づくりに携わる人たちだけにとどまらず、五月人形を制作する甲冑師さんや屏風や飾り台などを制作する職人さんたちとの親交が深まり、自身の制作意欲向上におけるよい刺激となっています。縫nuiプロジェクトを筆頭に、そんな方々とのコラボレーションも積極的に取り組み業界の発展に寄与できればと思っています。

それと一緒に工房で働いてくれている妻の存在は私にとって何よりも心強いものです。

出来上がった作品を見てくれては客観的に適切なアドバイスをしてくれますし、現在、衣装の色合わせや仕立ては彼女が中心となり作業を進めてくれています。

雛人形は夫婦円満を具現化したものでもありますから、私たち自身も夫婦円満、二人三脚で工房を育てていこうと思っていますよ。

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山田華悦・尚好 ■千葉県指定伝統工芸士 ■節句人形工芸士

昭和46年千葉生まれ。本名"山田吉徳"。18歳の頃より人形師である母のもと人形製作を始め、平成11年に二代目 山田華悦を襲名。極小サイズの衣裳着ひな人形制作を得意とする繊細さを持ち味とし、業界に新風を吹き込む若き伝統工芸士。 ▶インタビューページへ